【介護転職ストーリー】「誰にでもできる仕事、だと思っていました」29歳、元事務職が見た介護の“本当の価値”

さまざまな人々の介護転職への道のりをご紹介する「介護転職ストーリー」。第12回目は、29歳女性の挑戦です。

• A.S.さん
• 現在の年齢：29歳
• 現在の職業：介護職員（介護老人保健施設 勤務）
• 趣味：海外ドラマ鑑賞、岩盤浴

「正直に言うと、介護の仕事を少し見下していたんです」。そう打ち明けるA.S.さん。安定した事務職から、なぜ彼女は「誰にでもできる」と思っていた介護の世界へ足を踏み入れたのか。その背景には、自身の祖母の姿と、想像を絶するプロフェッショナルの世界がありました。これは、偏見という色眼鏡を外し、仕事の本当の価値を見つけるまでの物語です。

生い立ち～「誰かの役に立つ」ことへの無関心

福岡市内で生まれ育ったA.S.さん。両親は共働きで、幼い頃から「手に職をつけなさい」「安定が一番」と言われて育ちました。商業高校を卒業後、地元の不動産会社に就職。営業事務として、契約書の作成やデータ入力、電話対応など、ミスなく着実に仕事をこなす毎日でした。

安定した給料、土日祝日の休み、福利厚生も整っている。何不自由ない生活でしたが、彼女の心はどこか満たされていませんでした。

そんな彼女にとって、介護の仕事は「自分とは無縁の世界」。ニュースで見る介護職の特集に対しても、「大変そうだけど、特別なスキルがなくてもできる仕事でしょう？」という、漠然とした偏見を抱いていたと言います。

きっかけは祖母の急変。「専門職」のすごさを目の当たりに

彼女の価値観を根底から覆したのは、大好きだった祖母の存在でした。80歳を過ぎても元気に畑仕事をしていた祖母が、脳梗塞で突然倒れ、要介護5の認定を受けたのです。食事も、排泄も、寝返りさえも、一人では何もできなくなってしまった祖母。家族だけでの介護は限界を迎え、介護老人保健施設（老健）に入所することになりました。

お見舞いに訪れたA.S.さんが見たのは、衝撃的な光景でした。

食事の介助では、単に口に運ぶだけでなく、誤嚥しないように姿勢を細かく調整し、飲み込みやすいようにとろみをつける。排泄の介助では、羞恥心に配慮して素早く、しかし丁寧に。そして、床ずれを防ぐために、2時間おきに体位変換を行う。それらはすべて、A.S.さんが「誰にでもできる」と思っていたものとは全く違う、専門的な知識と技術に裏付けられた「プロの仕事」でした。

その時、彼女は初めて介護職が「誰にでもできる仕事」などではない、深い知識と観察眼、そして何より人間への深い洞察力が必要な「専門職」なのだと痛感しました。

【重要ポイント】
自身の祖母の介護を通して、介護が単なる「お世話」ではなく、専門的な知識と技術に裏打ちされた「プロフェッショナルな仕事」であることを目の当たりにしたこと。その衝撃が、彼女の偏見を打ち砕きました。

現在：「ありがとう」の先に、人の尊厳を守る仕事

その日から、A.S.さんの心は決まっていました。安定していた不動産会社を退職。ハローワークの職業訓練で介護職員初任者研修の資格を取得し、かつて祖母がお世話になった老健に、自ら志願して就職しました。

もちろん、現実は甘くありません。夜勤の辛さ、身体的な負担、そして何より、人の「生」と「死」に日々向き合う精神的な重圧。しかし、彼女は「あの時、祖母を救ってくれたプロになりたい」という一心で、必死に学び続けました。

事務職時代には感じられなかった、仕事への確かな手応え。自分が誰かの人生に直接関わっているという実感。休日は、海外ドラマを一気見したり、岩盤浴で汗を流したりして、心と体をリセットするのが彼女のスタイルです。

「もし昔の私に会えるなら、『あなたの思っている世界は、とても狭いよ』って言ってあげたいですね」。そう言って笑う彼女の表情には、かつての偏見など微塵も感じられません。介護という仕事の本当の価値を見つけた彼女の挑戦は、これからも続いていきます。

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